朝食を抜くと筋肉が減る?

「朝食を抜くと、身体によい」
一方で、
「長時間食事を摂らないと、
筋肉や内臓が分解されてしまう」
この二つの話を
耳にしたことはないでしょうか。
西医学健康法や、
西式甲田療法(甲田光雄先生)では、
朝食を抜く「半日断食」が推奨されてきました。
しかし、食事を摂らない時間が長くなると、
身体は何をエネルギーとして
利用するのでしょうか。
また、筋肉などの身体組織に
悪影響はないのでしょうか。
先日、弊社にも、
こうした疑問について
お客様からご質問をいただきました。
今回は、そのご質問をきっかけに、
食事を摂らない間に
身体の中で起こる変化を、
医学・生理学の知見から
考えてみたいと思います。
1.食べていない間、身体はどうやってエネルギーを確保するのか

私たちは、食事から得た栄養素を
エネルギーとして利用しています。
しかし、食事をしていない時間も、
心臓や脳をはじめ、
身体のさまざまな臓器は
働き続けています。
そのため、身体には、
食事から栄養が供給されない時間帯にも、
必要なエネルギーを
確保する仕組みが備わっています。
その一つが、
肝臓に蓄えられた
「グリコーゲン」の利用です。
グリコーゲンとは、
ブドウ糖を蓄えるための物質です。
食事を摂らない時間帯には、
肝臓のグリコーゲンが分解され、
血液中にブドウ糖が供給されます。
また、
脂肪組織に蓄えられた
脂肪も分解され、
放出された脂肪酸が
エネルギーとして利用されます。
そして、
これらと並んで
重要な役割を担っているのが、
「糖新生(とうしんせい)」です。
2.糖新生とは何か

糖新生とは、
糖質以外の物質を材料にして、
ブドウ糖を新たにつくり出す仕組みです。
主に肝臓で行われ、
腎臓もその働きに関わっています。
糖新生の主な材料には、
次のようなものがあります。
・乳酸:糖が利用される過程で生じる物質
・グリセロール:脂肪が分解される際に生じる成分
・アミノ酸:たんぱく質を構成する成分で、筋肉などに由来するものも含まれる
ここで重要なのは、糖新生が、
身体に異常が起きたときだけに
働く仕組みではないということです。
糖新生は、
健康な人の身体でも行われている、
正常な生理機能です。
食事から糖質が
供給されない時間帯にも、
血糖値を維持するために
重要な役割を果たしています。
つまり、
糖新生が起こること自体を、
身体に悪い現象と
考える必要はありません。
3.糖新生によって筋肉は分解されるのか

ここが、
今回のお客様の
ご質問の核心です。
結論から申し上げると、
糖新生の材料として、
筋肉由来のアミノ酸が
利用されることは事実です。
しかし、
糖新生が行われることと、
筋肉が過剰に失われて
身体が衰弱することは、
同じではありません。
糖新生には、
乳酸やグリセロールなど、
アミノ酸以外の材料も
利用されます。
また、
身体は食事を摂らない時間帯に、
ブドウ糖だけをエネルギーとして
利用しているわけではありません。
脂肪酸の利用も増え、
絶食が長引くと、
脂肪からつくられる
「ケトン体」の利用も増加します。
ケトン体は、
脳を含む一部の組織で
エネルギーとして利用されます。
長期間の絶食に適応する過程では、
こうした仕組みが、
身体のたんぱく質の消耗を
抑える方向に働きます。
ただし、
筋肉がまったく分解されなくなるわけでは
ありません。
食事から十分なエネルギーやたんぱく質を
摂取できない状態が続けば、
筋肉などの
身体組織が失われる可能性があります。
大切なのは、
糖新生が起こるかどうかではなく、
身体全体の栄養状態が
維持されているかどうかです。
4.朝食抜きと長期間の絶食は、同じではない

ここで区別しておきたいのが、
日常的な朝食抜きと、
何日間も食事を摂らない
長期間の絶食です。
例えば、
夕食を午後7時に終え、
翌日の昼食を正午に摂る場合、
食事を摂らない時間は
17時間になります。
一方、
数日間にわたる絶食では、
身体のエネルギー代謝が
さらに変化します。
したがって、
長期間の絶食で観察された
身体の変化を、
そのまま毎日の朝食抜きに
当てはめることはできません。
また、朝食を抜いた結果、
昼食と夕食で
十分な栄養を摂取できている人と、
一日の食事量が
不足してしまう人とでは、
身体への影響も異なります。
朝食を抜くことだけで
筋肉量が減少すると断定することも、
朝食を抜いていれば
筋肉量が維持されると考えることも、
適切ではありません。
5.朝食抜きの健康効果は、科学的に確認されているのか

近年、
食事を摂る時間帯を
一定の範囲に限定する
「時間制限食」の研究が進められています。
2022年、
医学誌『The New England Journal of Medicine』に、
肥満のある成人139人を対象とした
研究が発表されました。
この研究では、
参加者を二つのグループに分け、
12か月間にわたって比較しました。
一方は、
一日の摂取エネルギー量を
制限するとともに、
食事を午前8時から午後4時までの
時間帯に限定したグループ。
もう一方は、
食事の時間帯を限定せず、
一日の摂取エネルギー量を
制限したグループです。
その結果、
両グループとも体重は減少しましたが、
12か月後の体重減少量には
統計学的に有意な差が認められませんでした。
体脂肪や代謝に関する指標についても、
時間制限食を追加することによる
明確な優位性は示されませんでした。
この研究は、
少なくとも肥満のある成人において、
食事時間を制限することが、
通常のエネルギー制限よりも
必ずしも優れた減量効果を
もたらすわけではないことを
示しています。
一方、
2024年に発表された、
メタボリックシンドロームのある成人を対象とした
別の研究では、
一日の食事時間を8~10時間に制限したグループで、
3か月後の血糖管理指標に
小幅な改善が認められました。
ただし、
研究期間は3か月と短く、
長期的な効果については、
さらに検討が必要です。
ここで注意したいのは、
これらの研究が、
必ずしも「朝食を抜くこと」そのものを
検証したものではないという点です。
例えば、
2022年の研究では、
朝食を抜くのではなく、
夕方以降の食事を控える方法が
採用されています。
したがって、
これらの結果をもって、
西医学健康法や
西式甲田療法で行われる
朝食抜きの効果が
証明されたと
考えることはできません。
現時点では、
朝食を抜くことが、
すべての人にとって
健康上有利であると
結論づけることはできないのです。
6.朝食を抜く際に注意したいこと

朝食を抜く食生活を考える際には、
年齢や体格、健康状態、
そして一日に摂取する
栄養の量に注意する必要があります。
特に、
痩せている方や
筋肉量が少ない方では、
食事の回数を減らすことによって、
必要なエネルギーやたんぱく質が
不足しないようにすることが重要です。
また、
・糖尿病の治療を受けている方
・妊娠・授乳中の方
・成長期のお子様
・栄養状態に問題のある方
などは、
自己判断で食事制限を行うことを避け、
医療専門職に相談する必要があります。
朝食を抜いている方は、
次のような変化にも注意してください。
・体重が意図せず減り続けていないか
・筋力や体力が低下していないか
・強い疲労感やふらつきがないか
・一日に必要な栄養を十分に摂取できているか
こうした変化が見られる場合には、
食事の内容や回数を見直すことが必要です。
なお、
体調がよいという自覚だけで、
栄養状態が十分だと
判断できるわけではありません。
体重の推移や食事内容なども含めて
考えることが大切です。
7.健康法は、何のためにあるのか

今回、
お客様からご質問をいただき、
改めて考えさせられたことがあります。
それは、
健康法の目的についてです。
西医学健康法や西式甲田療法の教えを学び、
日々の生活に取り入れている方も
多いことと思います。
私どもも、
こうした健康法を通じて、
自分自身の食生活や生活習慣を
見つめ直すことには
意味があると考えています。
ただし、
健康法を実践するうちに、
その方法を守ること自体が
目的になってしまうことはないでしょうか。
朝食を抜かなければならない。
一日二食を守らなければならない。
決められた時間まで食べてはいけない。
しかし、本来、
健康法とは何のためにあるのでしょうか。
それは、
自分自身の健康を守り、
よりよく生きるためではないでしょうか。
どれほど優れた理論を持ち、
長い歴史を持つ健康法であっても、
それを実践する人の健康に役立ってこそ、
意味があるはずです。
今回ご質問いただいたお客様からは、
その後、ご自身の体調に合わせて
食事を摂っていきたい、
というお返事をいただきました。
私どもも、
まさにそのように考えています。
健康法を尊重することと、
現代の医学や栄養学の知見を
取り入れることは、
必ずしも対立するものではありません。
大切なのは、
特定の方法を
無条件に正しいとするのではなく、
科学的な知見にも目を向けながら、
自分自身の身体に合った方法を
選ぶことです。
健康法に身体を合わせるのではなく、
身体のために健康法を選ぶ。
そして、必要であれば、
その方法を見直す。
それは、
健康法を否定することではなく、
健康という本来の目的に
立ち返ることではないでしょうか。
今回のテーマが、
皆様にとって、
ご自身の食生活や健康との向き合い方を
改めて考えるきっかけになれば幸いです。
参考資料
1. Melkonian EA, Asuka E, Schury MP. Physiology, Gluconeogenesis. StatPearls Publishing. Updated November 13, 2023.
糖新生の仕組み、肝臓・腎臓の役割、糖新生の材料について。
2. Chourpiliadis C, Mohiuddin SS. Biochemistry, Gluconeogenesis. StatPearls Publishing. Updated June 5, 2023.
絶食時の糖新生、筋肉由来のアミノ酸の利用について。
3. Liu D, et al. Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss. New England Journal of Medicine. 2022;386:1495–1504.
肥満のある成人139人を対象とした12か月間のランダム化比較試験。
4. Manoogian ENC, et al. Time-Restricted Eating in Adults With Metabolic Syndrome: A Randomized Controlled Trial. Annals of Internal Medicine. 2024;177:1462–1470.
メタボリックシンドロームのある成人に対する時間制限食の研究。
5. American Diabetes Association Professional Practice Committee. 5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026.
間欠的断食の効果、栄養管理、糖尿病治療中の注意事項について。
カテゴリ
プロフィール
- 花澤 久元
-
- 誕生日:1946年11月6日
- 血液型:O型(Rh+)
- 趣味:スイマグ造り卒業、もっか青汁作り
- 自己紹介:
母親に首根っこつかまれて飲んでいたスイマグとの付き合いも早70年。
起きがけのスイマグ飲用を忘れず、青汁作りに精を出し、夕食を待ちこがれる”マイナス腸活”を楽しんでいる。
